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悪夢を食べてくれる?「星火温胆湯」

 むし暑くて寝苦しい夜は、悪い夢にうなされることがある。日本には古くから、この悪夢をバク(貘)が食べてくれるという言い伝えがあるという。戦国武将の中には、夜着や枕絵にバクの絵柄を配することもあったとか。戦乱の世に悪夢を払い、少しでもよい夢をみたいという、武将たちの心情がしのばれる。
 一方、バクの伝説は中国にもあり、邪気を追い払う魔除けの力を持った動物として、屏風絵などに描かれることが多く、その皮を敷いて寝ると、湿邪を払うともいわれている。「悪夢を食べる」「湿邪を払う」という日中のバク伝説は一見、無関係に思えるが、中国漢方の視点からは、興味深い共通点が見えてくる。
 日頃、脾胃(消化器)の働きの悪い人が、水分を取り過ぎたり、高い湿度やストレスの影響を受けると、体内に病理的な水湿(湿邪)がたまりやすくなる。さらに、これが長く停滞すると粘っこい痰になる。この痰は身体の各部に悪影響を与え、精神に影響が及ぶと、不眠、イライラ感、胸悶感、憂鬱感、不安感、幻覚などの症状が現れる。そして胸苦しさから、悪夢にうなされることにもなる。つまり、湿邪と悪夢には密接な関係があることになる。
 湿邪を払い、悪夢を解消してくれる、いわばバクに相当する処方に星火温胆湯がある。鎮静・安眠作用のある黄連、半夏、酸棗仁に、水湿や気の停滞を改善する竹茹、陳皮、茯苓などを配した処方で、湿邪が原因となる胃腸症状から精神症状の改善まで、幅広く使用できる。

路 京華(中国中医研究院広安門医院主治医師)讀賣新聞日曜版『漢方漫歩』1994/8/7



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