漢方漫歩INDEXへ 「仮の熱症状」に体を温める薬
先週は、顔の色つやから健康状態を知る診断法を紹介した。しかし、それはあくまで原則である。たとえば、顔が赤いから熱がある。それに対しては、熱を冷ます薬というだけでは短絡的すぎる。
同じ熱でも、実熱(陽の過剰)と虚熱(陰の不足)があり、それぞれ治療法に違いがあることについては、以前にもこの欄で触れた。それとは別に、かなりのベテランでも間違えやすいものに、仮の熱症状がある。頭部のほてりやのぼせを訴えていながら、よく診察してみると、体の下部には冷えの症状があるという、いわゆる「真寒仮熱」の証である。
中国漢方では、体を温める生命エネルギーの中心が下腹部にあると考えている(これを命門の火という)。病気や老化によって、このエネルギーが極端に低下した場合、火が分離して上半身にのぼり、頭部に浮き出てくることがある。頭部でも特に頬のあたりが赤い・のぼせ感がある・のどが腫れて痛む・鼻血・目の充血といった熱証がある一方、下半身の冷え・下痢・倦怠感などの病状を呈する。このような、下半身の冷えを伴う上部の熱感を、漢方では「戴陽証(たいようしょう)」と呼んでいる。
ここで判断を誤り、黄連解毒湯や三黄瀉心湯などの寒凉薬を安易に用いるのは大変危険である。この場合には、陽気の不足が根本にあるため、一般的には八味地黄丸や四逆湯のような、陽気を補い、体を温める温補薬を用いるとよい。熱証に対して熱薬を用いる。一見矛盾した方法のようだが、このへんが漢方薬の使い方の難しいとところでもある。
路 京華(中国中医研究院広安門医院主治医師)讀賣新聞日曜版『漢方漫歩』1994/10/16