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虚に対しては補い、実に対しては瀉す

 「虚々実々(きょきょじつじつ)」といえば、戦いや掛け引きの形容に使われる言葉だが、中国漢方では「虚々実々の戒(かい)」という言い方があって、意味合いが違う。この場合の「虚々実々」は、″虚を更に虚せしめ、実を更に実せしめる″ということで、誤治(治療の間違い)を戒める意味になる。
 虚証(きょしょう)、実証(じっしょう)の判定は、漢方の最も基本的な物差しの一つである。虚とは、気・血・水(き・けつ・すい)の不足、病気に対する抵抗力の低下状態をさし、実証とは、抵抗力はあるものの、体内に気の鬱滞(うったい)や痰湿(たんしつ)お血などの病理産物がある状態をさす。そして、「虚に対しては補い、実に対しては瀉す」のが原則である。
 治療に際して、時として見られるのが、この虚実の間違いである。ここで判断を誤ると、症状をさらに悪化させる結果になってしまう。
 たとえば気虚(ききょ)がある肥満の人に、表面上、体力が充実しているからといって、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)のような瀉剤を安易に用いると、下痢をしたり、冷えが出たりして、体調が悪くなることがある。この場合は、香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう)のような補気剤を用いるべきである。逆き、ストレスによって気が鬱滞している人に、元気がないからと補中益気湯(ほちゅうえっきとう)のような補気剤を用いると、ふくらんだ風船に更に空気を入れるようなもので、ますます気が鬱滞し、腹がはったり、胸苦しいなどの症状が出てくる。この時には、開気丸(かいきがん)のような理気剤(りきざい)で、気の流れを良くしてやるとよい。
 路京華(中国中医研究院広安門医院主治医師)讀賣新聞日曜版『漢方漫歩』1994/12/11



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