漢方漫歩INDEXへ 「薬用いるのは兵を用いるがごとし」
前回は、虚・実判定の間違いによる誤診について触れたが、虚・実が混在している(虚実挟雑(きょじつきょうざつ)という)病症の場合は、さらに対処が難しくなる。
肝硬変の愚者を例にとると、まず目立つのは、門脈(もんみやく)のうっ血や腹壁静脈(ふくへきじようみやく)の怒張、脾臓の腫れ、腹水などである。これらの病理状態は、「実邪(じつじゃ)」に属する。しかし一方では、病気の慢性化に伴い、抵抗力が低下して、疲れやすい、だるい、食欲がない、貧血といった、「虚(きょ)」の状態も存在する。
また、体力が低下した高齢者では、胃腸の働きが弱いため、便秘(実邪(じつじゃ))になりやすい。特に、重病で衰弱がひどく寝たきり状態の場合、その傾向が顕著だ。
このように虚実が混在しているとき、病理産物があるからといっていや活血化お薬(かっけつかおやく)や通便薬(つうべんやく)・利水薬(りすいやく)などの瀉剤(しゃざい)を安易に使用すると、体力を消耗しすぎることになり危険である。逆に補剤(ほざい)だけに頼ると、実邪を助長し、病状がさらに悪化することになる。
治療法としては、まず虚を補った後で実邪を除く(先補後攻(せんほこうこう))、反対に実邪を除いた後で虚を補う(先攻後補(せんこうこうほ))、補法と瀉法を同時に用いる(攻補兼施(こうほけんし))など、ケースバイケースで対処しなければならない。
中国漢方には、「薬を用いるのは、兵を用いるがごとし」という言葉がある。日本には「生兵法(なまびょうほう)はケガのもと」という言い方もあるようだが、薬を使いこなすには、兵法(中医学理論)と兵の能力(薬物学)に精通していなければならない。
路京華(中国中医研究院広安門医院主治医師)讀賣新聞日曜版『漢方漫歩』1994/12/18